当グループの片桐と卒業生の成田君が中心となって開発した放射性薬剤から放射される低エネルギーのガンマ線を可視化できるコンプトンカメラの論文がNIM A誌に掲載されました。
放射性核種を含む医薬品の体内投与により全身の臓器および生体組織の画像検査を行う核医学診断は癌の早期発見や脳梗塞等の血流異常の診断等に有効であり、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography) 装置の普及により広く臨床応用がなされています。核医学診断の実施検査数は年間約 180万件におよび、中でも SPECT 装置を用いた診断件数は全体の約 6 割を占め、年々増加傾向にあります*1。診断に使用される代表的な放射性医薬品の1つであるテクネチウム99mの投与量は約700MBqと一般に高放射能であるため*1、医薬品の飛散や取りこぼし、取り扱ったゴム手袋や注射器などの医療ごみなどによる医療従事者の被ばくが懸念されます。それらを広視野・高感度のガンマ線カメラにより可視化できれば無用な被ばくを軽減できます。
広視野・高感度のガンマ線カメラとしてはシンチレータを用いたコンプトンカメラがありますが、これまでのカメラは主に250keV以上の高いエネルギーのガンマ線に対してのみ撮像が可能でした。SPECT 検査に使われる放射性医薬品は主に 250 keV 以下の低エネルギーガンマ線 を放出するため、低エネルギーのガンマ線を広視野・高感度で撮像できるカメラが期待されていました。そのような中、茨城大、東大、北里大、国立がん研究センター東病院、仙台高専、高エネルギー加速器研究機構の研究グループによってフッ化カルシウムシンチレータを用いたコンプトンカメラを開発しました(左図)。フッ化カルシウムシンチレータはガンマ線との相互作用による発光量が大きくかつ原子番号が小さい素材であるため、低エネルギーのガンマ線を撮像可能なコンプトンカメラを作るのに適しています。研究グループは、核医学施設における放射性薬剤を用いた撮像試験を実施し、設計通り低エネルギーガンマ線が撮像できていることを検証しました(右図)。フッ化カルシウムシンチレータは比較的安価であり、今回開発したカメラを普及品として核医学施設に導入できれば医療従事者の被ばくを軽減することができるのではないかと研究グループは考えております。
(左図)開発したカメラの写真。(右図)核医学施設による放射性薬剤からの撮像試験で得られた画像を全天写真に重ねたもの。黄色い丸が放射性薬剤の位置、赤がガンマ線強度を示している。
今回の研究成果は、学術雑誌Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section Aに掲載されました。論文へのリンクは https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168900221001170 です。
*1 https://www.jrias.or.jp/association/pdf/8th_kakuigakujitaityousa_2018_67_7_339.pdf